転職で現職の給与を正直に伝えるべきか【元CAが年収交渉の正解を解説】






転職で現職の給与を正直に伝えるべきか|元CAが内定取り消し実例から解説

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転職で現職の給与を正直に伝えるべきか|元CAが内定取り消し実例から語る「年収交渉の現実」

キャリアアドバイザー(CA)として3年間で約800名の転職支援に関わった私が、今でも忘れられない案件がある。

2019年秋、30代前半の男性Aさんのケースだ。現職の年収は410万円だったが、「エージェントに低く見られたくない」という理由で、書類上は520万円と申告して転職活動を進めた。面接も順調で、大手IT企業から年収600万円の内定を獲得。喜びのあまり現職に退職の意思を伝えた翌日、企業の人事部から私に連絡が入った。

「源泉徴収票の提出をお願いしたところ、申告年収と110万円の乖離が確認されました。内定は取り消しとなります」

Aさんは現職への退職意思も伝えた後だった。内定取り消しと同時に、在職中の立場も極めて難しくなった。この出来事は「年収を盛ること」がどれほど取り返しのつかないリスクを生むかを、私に叩き込んだ実例だった。

年収をめぐる転職の”正解”は、単純に「正直に言えばいい」でも「高く言えばいい」でもない。聞かれる目的・状況・交渉タイミングによって、伝え方の戦略がまったく変わる。この記事では、現場で見てきた失敗と成功の両方を踏まえ、年収申告の正しい考え方をすべて書く。

この記事でわかること

  • 企業・エージェントが現職年収を聞く「本当の理由」
  • 年収を盛ったときの内定取り消し・採用後発覚の具体リスク
  • 源泉徴収票の提出を求められたときの対処法
  • 現職年収が低くても下げられない伝え方
  • 希望年収を「幅で伝える」技術
  • エージェント経由と直接応募で戦略が変わる理由


企業・エージェントはなぜ現職年収を聞くのか——目的を知れば答え方がわかる

「現在の年収を教えてください」という質問には、企業とエージェントとでそれぞれ異なる目的がある。質問の裏にある意図を理解しないまま答えると、自分に不利な方向へ誘導されることがある。

企業が現職年収を聞く3つの理由

① オファー年収の「下限」を探るため

企業は予算の上限を持っているが、できれば低く採用したい。現職年収を知ることで「この人は○○万円の提示で納得するはず」という根拠にする。現職年収がそのままオファーの起点になるケースが多く、これが「現職年収が低いと転職後も低くなりやすい」構造の正体だ。

② 求職者の市場価値を判断するため

「現職でこれだけもらっている」という事実は、前の会社がその人の仕事をどう評価したかの間接的な証拠として見られる。年収が高いほど「優秀な人材」というシグナルになる面もあるため、現職年収は能力評価の補助指標として使われる。

③ 入社後の満足度・定着率を予測するため

極端に現職より低い年収でオファーを出せば、入社後すぐに辞めるリスクがある。企業としては「この人が不満なく働ける水準かどうか」を測るための情報として現職年収を参照する。

エージェントが現職年収を聞く理由

エージェントの収益は「成功報酬=採用者の年収の約30〜35%」が一般的だ。つまりエージェントは年収が高い人を採用させるほど手数料が増える。現職年収を把握することで、どの企業に紹介すれば最も高いオファーを引き出せるかを計算している。

一方で「求職者の希望年収が現実的かどうか」を見極める材料としても使う。現職300万円の人が「希望1,000万円」と言った場合、エージェントは紹介できる求人を絞り込む。これ自体は悪いことではないが、必要以上に正直に申告しすぎると「この水準の求人しか紹介されない」という天井ができてしまうリスクもある。

ポイント

現職年収を聞く質問は「正直かどうか」の踏み絵ではなく、オファー設計のための情報収集だ。目的を知った上で、自分に有利な形で答える戦略を持つことが交渉の第一歩になる。

年収を盛るとどうなるか——リスクを段階別に整理する

冒頭のAさんの事例は極端ではない。CA時代、年収の水増し申告が後から発覚したケースを私は10件以上目撃している。リスクは「バレるかどうか」だけでなく、バレた「タイミング」によっても深刻度がまったく異なる。

段階①:選考中に発覚した場合

選考の途中で矛盾が生じた場合(例:給与明細の提出を求められた、面接で詳細を問われた)は、選考落ちで終わる。企業側は「誠実さに欠ける」と判断し、能力に関係なく即不採用になる。この段階ならまだ他の企業への影響はない。

段階②:内定後〜入社前に発覚した場合

Aさんのケースがこれだ。内定取り消しは法的に「企業側の権利」として認められており、虚偽申告を理由とした内定取り消しは裁判例でも企業側が勝訴している。しかも内定後は現職への退職意思を伝えているケースが多く、ダブルパンチになる。

段階③:入社後に発覚した場合

入社後に源泉徴収票の提出、社会保険の手続きなどで発覚することがある。この場合、「経歴詐称」として懲戒解雇の対象となりうる。懲戒解雇歴は次の転職でも影響するため、最も深刻な段階だ。実際に私が関わった案件で、入社6ヶ月後に発覚し解雇に至ったケースが1件ある。年収の水増し額は80万円だった。

年収を盛ると発覚しやすい3つのタイミング

  • 源泉徴収票の提出要求|内定後に「前職の源泉徴収票を提出してください」と言われる企業は多い。前職の年収が記載されているため、水増し額が即バレる
  • 社会保険の標準報酬月額|転職時の社会保険手続きで、前職での報酬額が確認できる場合がある
  • 在籍確認・バックグラウンドチェック|外資系・金融・大手企業では専門機関による在籍・年収確認が行われることがある。この調査では前職への照会が実施される

「バレなければいい」という発想自体が危険で、バレる手段は年々増えている。特にバックグラウンドチェックを実施する企業の割合は、外資系では90%以上、国内大手でも増加傾向にある。

源泉徴収票・給与明細の提出を求められたら——断れるのか、どう対処するか

「源泉徴収票を提出してください」と言われたとき、多くの求職者が「断れるのか」「提出しなければならないのか」と迷う。結論から言えば、法的に提出義務はないが、断ると選考に影響する可能性が高い。

提出を求める理由と企業の本音

企業が源泉徴収票を求める主な理由は2つある。一つは年収申告の確認(虚偽申告のチェック)、もう一つは給与計算の参照(特に月次の給与・賞与の内訳を知るため)だ。求めてくるタイミングは「内定後・入社手続き前」が圧倒的に多い。

場面別の対処法

◆ 選考中(内定前)に求められた場合

法的には提出不要。「内定をいただいた後であればご提出できます」と伝えるのが適切だ。内定前に提出を強く求める企業は、それを根拠に年収を下げることを目的にしている可能性がある。

◆ 内定後に求められた場合

申告した年収と実態が一致していれば素直に提出すればよい。問題は「盛っていた場合」だ。この段階での提出拒否は「なぜ拒否するのか」という疑念を生み、内定取り消しのリスクが高まる。

◆ 在職中・副業収入がある場合

副業収入を含めた源泉徴収票の提示が難しいなど個人情報的な事情がある場合は、「一部情報のマスク処理をした上で提出します」と申し出ることが可能だ。ただし、これが通じるかどうかは企業次第。

CA時代に学んだ鉄則は「盛らなければ提出を恐れる必要がない」だ。現職年収が低くても、それを正直に申告した上で「希望年収」との差を説明する戦略の方が、長期的にリスクがない。

提出書類に関する現実的な知識

源泉徴収票には「支払金額(年収総額)」が記載される。賞与・残業代・各種手当をすべて含んだ金額だ。月収だけ伝えていた場合も、ここで年収総額が確認されるため、数字の一貫性は常に保っておく必要がある。

現職年収が低い場合の正しい伝え方——「低い年収」を起点にされないための言い方

現職年収が低い場合、正直に申告することで「その水準でのオファー」に誘導されるリスクがある。しかし盛ることもできない。このジレンマを解決するのが「文脈を添えて伝える」技術だ。

現職年収が低くなりやすい3つのパターンと伝え方

パターン①:業界・業態の水準が低い

例:「現職年収は380万円ですが、これは業界水準(中小アパレル平均350〜400万円)に沿ったものです。今回はより評価制度が整った環境でのキャリアアップを希望しており、業界標準である○○万円台を希望年収として考えています」

なぜこの言い方か:「業界水準」という客観的な根拠を置くことで、現職年収が個人の能力の低さではなく構造的な問題であることを示せる。自分を市場に再定義する言い方だ。

パターン②:残業・手当が少なく固定給が低い

例:「現職は基本給280万円・賞与込みで年収430万円です。ただ固定給と残業代込みの構造のため、実力ベースの評価が年収に反映されにくい環境でした。希望は固定給ベースで○○万円台です」

なぜこの言い方か:給与構造の問題を明示することで、現職年収が「実力値」ではなく「会社の給与体系の問題」であることを伝えられる。

パターン③:昇給が止まっている・評価されていない

例:「現職は3年間昇給がなく、現在350万円です。直近のプロジェクトでは○○という成果を出しましたが、会社の財務状況から評価が年収に反映されない状況でした。正当な評価環境での希望年収は○○万円を想定しています」

なぜこの言い方か:「評価されなかった理由」を会社側の問題に帰属させ、自分の成果を具体的に示すことで「実力≠現職年収」を証明する構造になっている。

共通して意識すべき点は、現職年収を「単なる数字」として出さず、「この年収になった理由」と「希望年収の根拠」をセットで伝えることだ。数字だけ出すと、その数字に引っ張られてオファーが設計されてしまう。

失敗事例:文脈なしで低年収を申告したBさんの場合

28歳女性Bさん、現職年収290万円(中小企業事務職)。転職エージェントに「290万円です」と正直に申告したところ、「ではまず350〜380万円の求人から紹介します」と言われた。希望は450万円だったが、エージェントの中で「この人は350万円台の求人でも動く」という判断が先行してしまい、当初3ヶ月間は自分の希望に合わない求人しか紹介されなかった。現職年収の申告は正直で問題なかったが、「なぜその年収なのか」と「希望年収の根拠」を最初から伝えなかったことで、エージェントに誤ったペルソナを与えてしまった。

希望年収の答え方——「高めに言う・正直に言う・幅で言う」どれが正解か

希望年収の伝え方については「強気に高く言え」という意見と「現実的に言え」という意見が混在している。CA経験からすると、どちらも状況を無視した一般論であり、答え方は3つの変数によって変わる。

変数①:選考のどのタイミングか

  • エントリー・一次面接前|この段階では「幅で答える」が最も有利。「○○〜○○万円を希望しておりますが、業務内容・評価制度を踏まえて相談させてください」という答え方で、上限を確保しつつ柔軟性を示せる
  • 最終面接・オファー面談|ここでは明確な数字を出す。「○○万円を希望します」と言い切る。この段階で幅を言うと「では下限でいいか」と解釈される

変数②:企業の予算帯をどれだけ把握できているか

求人票や口コミサイト(OpenWork等)で企業の年収相場を事前調査しておくと、「この企業なら○○万円は出せる」という根拠を持った上で希望年収を設定できる。相場より30〜20%高い数字は交渉余地として有効だが、50%以上高いと「現実を知らない人」と見られる。

変数③:自分のスキルに「市場価値の根拠」があるか

「〇〇の資格を保有しており、同スキルの市場平均は○○万円です」「前職で○○億円の売上に貢献しました」という根拠があれば、強気の希望年収は通りやすい。根拠のない高望みは逆効果になる。

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